コラム&インタビュー
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【後編】スター軍団の巨人でどうすれば無名の若手は台頭できるか。加藤弘士が考える川相昌弘や清水隆行に見る、"本当の一流"になるための戦略とは

2022/7/21(木)

スポーツ報知デジタル編集デスクとして働く今も、時間があるとジャイアンツ球場に行ってチケットを購入して楽しんでいるという加藤弘士。今年上梓した『砂まみれの名将 野村克也の1140日』(新潮社)にもよく表れているように、野球の深い見方はそうした姿勢や好奇心から育まれている。後編では、スポーツ報知公式YouTube「報知プロ野球チャンネル」のメインMCも務める加藤にジャイアンツとファームの楽しみ方を聞いた。

■ショート未経験から球界屈指の名手へ

ジャイアンツのショートとして1980年代から2000年代前半まで活躍し、引退後に二軍監督や三軍監督を務めた川相昌弘さんが現役時代の野球ノートを見せてくれたことがあります。

川相さんは岡山南高校ではピッチャーだったけれど、当時の山下哲治スカウトが「こいつはいいショートになる」と才能を見抜いて1982年ドラフト4位で指名しました。入団したときは原辰徳、中畑清、篠塚和典という豪華内野陣で、「この中で俺が一体何をできるんだ?」と思ってプロ生活を始めたそうです。

そこから川相さんがレギュラーに上り詰めた背景は、ノートを見るとよく伝わってきました。川相さんは毎日、自分の課題と今日行った練習、明日はどうするか、今後はどうしていくかとノートを綿密につけていたそうです。

それを見せてもらったときに思ったのは、やっぱり漫然とやっていてはダメで、日々の練習にどれほど課題と目的意識を持ってやれるか。試合で結果が出たら、そこからどう復習して次に臨むか。そうやって相当考えてやっていかないと、高卒の選手が一軍に定着して活躍するのはなかなか難しい。しかも川相さんは犠打の世界記録を樹立しています。本当の一流になるには一生懸命やることは当たり前で、そこからプラス戦略が必要になります。

■未来を切り開く増田陸のスピリット

果たして、今のファームで川相さんのようにできている選手はどれくらいいるのか。そういう視点で見ると、「もっとやれ、頑張れよ!」っていう気持ちになりますね。ジャイアンツという球団はやっぱりスター軍団ですから、競争が本当に熾烈です。

でも、ファームの選手たちが割って入る余地はあると思うんですよね。今年は増田陸が一軍で活躍していますが、去年の秋に育成契約になりました。もともと2018年ドラフト2位で入った選手です。

今年の2月のキャンプは三軍スタートで、頭を丸めてきたんです。まるで「僕は今、頭をいじっている場合じゃない」という感じで。三軍で結果を残して、二軍でもアピールして3月に再び支配下登録されると、今、一軍で打ちまくっています。増田陸みたいな選手がいる。「ジャイアンツはチャンスがない」なんて若手が嘆いている時間はないんですよ。

交流戦で所沢に西武戦を見に行ったら、一塁を守っている増田陸は物怖じせずに年上の選手に声をかけに行っていました。普通はなかなか行けないですよね。「今、やるしかない。一軍に何とかしがみつくんだ」っていうスピリットが伝わってきました。

他の選手たちも、増田陸のようにバットで未来を切り開いてほしいですね。

■清水隆行の名言

今、育成選手で面白いなと見ている一人が大津綾也です。北海高校から去年の育成10位でキャッチャーとして入り、今は内野に挑戦しています。セカンドやショートの守備がめちゃくちゃうまくて、元ロッテの小坂誠のように守備範囲も広いんですよ。

最初にジャイアンツ球場で見たときは、「なんでキャッチャーがセカンドをやっているのかな?」と思ったんですけど、練習の中で適性を見極められたんでしょうね。今、自分でも分かっていなかった自分のすごさに気付き始めたようなところを感じられて、ノックだけでも楽しく見られる選手です。

もう一人、注目しているのが保科広一。2020年の育成11位で創価大学出身です。ものすごく飛ばすんですよ。三軍だと打率3割台後半のハイアベレージで長打を量産しています。この選手が一軍までどうやって行って、東京ドームでどれだけ打つのか。

ファームの面白さは、三軍や二軍でいくら打っても一銭にもならないところです。給料は一軍で打たないと上がらない。切ないところですが、一軍切符だけは自分でつかむしかないんですよね。

長年プロ野球を見ていると、ファームの選手が一軍に上がるにはやっぱり練習しかないという気がします。それも、尋常ならざる練習しかないような気がするんです。

元ジャイアンツの清水隆行さんが面白いことを言っていて、すごく好きな言葉があります。

「練習すれば活躍できるとは限らない。ただ活躍している選手はみんな、ものすごく練習をしている」

自分の未来を切り開くためには、そして短い選手生命を光のあるものにするには、本当に練習しかない。若くしてそれに気付ける人が、どれくらいいるのかなと思うんですよね。

取材予定がなくとも、チケットを買って試合を見に行くという加藤弘士。帽子は観戦仲間でスタイリストの伊賀大介にプレゼントいただいたもの。
取材予定がなくとも、チケットを買って試合を見に行くという加藤弘士。帽子は観戦仲間でスタイリストの伊賀大介にプレゼントいただいたもの。

写真:本人提供

■未来の主力を追いかける面白さ

現在、ジャイアンツは新たなファーム施設を建設しているように、どんどん育てて東京ドームに送り出すという球団の明確なビジョンを感じます。

二岡智宏二軍監督の打順の組み方を見ていると、どんなに期待の選手でも結果が残らなければスタメンから外したり、下位打線にしたりするんですよ。例えば高卒2年目で身長2メートルの秋広優人は華があって、ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平みたいなバッターになってほしいと思っているんですが、結果が残らなかったら上位打線では使われないこともあります。

やっぱりファームは競争です。結果を残すしかない。必死に未来に懸けている若い人たちを見ていると、何か元気をもらうんですね。ファームにはそういう面白さがあります。

ジャイアンツは三軍まであるから、競争がより激しいですしね。三軍の監督は駒田徳広さん、コーチは杉内俊哉さん、金城龍彦さんなど、豪華な面々が教えています。

■ファームの全員が「かけがえのない存在」

スポーツ報知にはプロ野球情報を伝えるYouTubeアカウントがあるのですが、コメント欄を見ると、改めて気付かされることがあります。大津のことを紹介しましたが、彼のように地方の有望高校球児がドラフトで指名されてジャイアンツに入っていくわけじゃないですか。ドラフト直後は結構情報があるけれど、ある時期からなくなっていく。でも気にかけている人がいて、「あの選手は今、どうしていますか?」というリクエストをたくさんいただくんですよね。

僕らはややもすると、試合の結果などで選手を格付けして報じてしまうけれど、地元から送り出す側からすると、それぞれかけがえのない存在なんだっていうことを改めて再認識します。だからこそ、選手たちには上を目指して頑張ってほしいですね。逆に僕らとしても、他のメディアが手の届かないところをしっかり報じていきたいと思っています。

インタビュー/構成=中島大輔 企画=This、スカパー!

【インタビュー前編はこちら】

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